重曹とクエン酸

重曹とは、炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)のことで重炭酸ソーダとも呼ばれる。
白い粉末で水にわずかに溶け、その水溶液はPH8,2(2%,20℃)のごく弱いアルカリ性を示す。人体に無害な物質で長期保存可能である。

重曹は膨張剤(膨らし粉)として食品に使われており、その他に胃腸薬やうがい薬、皮膚洗浄剤、腎不全患者の人工透析液、食器洗いや銀製品のクリーニング、浴室清浄、冷蔵庫や排水溝の消臭など、さまざまな用途に使われている。

膨らし粉として働くのは、過熱した時の分解によって炭酸ガスを生じ、ホットケーキなどの生地がこの炭酸ガスを取り込むからである。
(2NaHCO₃→NaCO₃+CO₂+H₂O)

また、弱いアルカリ性を示すため、酸性のにおいに対して中和反応を起こし脱臭効果を示す
酸性のにおいの成分とは、生ごみや冷蔵庫内から生じる酸敗集に含まれる(n-カプリン)、排水臭に含まれる酪、下駄箱や靴下などのにおいに含まれるイソ吉草、調理臭に含まれる脂肪などである。

しかし、アルカリ性の悪臭(魚の生臭さのトリメチルアミン臭やトイレのアンモニア臭など)には、効果がない。このような場合は、クエン酸など酸性のモノを使うとよい。

  1. 脱臭剤として用いるには、1カップ位の重曹をそのままカップや空きびんに入れて蓋をせずに冷蔵庫、食器棚、靴箱などに設置する。効果は2か月位。
    重曹を半紙などに包んで靴の中に入れるとにおいが消える。
  2. 弱アルカリ性の水溶液であることを利用して、あく抜きにも使われている。
    野菜や山菜類を0,5%程度の重曹を入れてゆでると繊維質が軟化し、えぐみを出すホモゲンチジン酸やシュウ酸(HOOC-COOH)などが、アルカリと結合して抜け出てくる。
  3. 汚れ落としとして用いる(鍋の焦げ付き)ならば、鍋に水を張り重曹を入れた後ひと煮立ちさせ、一晩置く。 重曹を水に溶かして温度を上げることによって炭酸ガスが生じ汚れを浮き上がらせる。  また生成した炭酸ナトリウムNaCO₃の方が重曹よりもアルカリ性が強いので(炭酸ナトリウムでPH=11位)、残存する油脂成分と一部けん化反応を起こす。
    (けん化とは油脂がアルカリの作用でグリセリンと石けんになる化学反応)
    そのため、表面張力が低下して焦げ付きと鍋との間に水が入りやすくなり、焦げを柔らかくし焦げが取れやすくなる。
  4. 通常の汚れ落としの場合は重曹をそのまま用いる。油や茶渋のついた食器やまな板に重曹を振りかけて洗う。
    重曹が水に溶けるとNa⁺とHCO₃⁻に電離し、プラスに帯電している汚れにHCOO₃⁻イオンが付着し、汚れを引き離す(水を使いすぎないようにするのがコツ)。
  5. 重曹の結晶は柔らかいので(モース硬度2,5、ダイヤは10)、研磨効果も期待される。 モース硬度高いステンレスや鉄などには傷をつけずに、その表面についた汚れだけを削り落とすことができる。 最終的には水に溶かして洗い流すことができる。(アルミや銅は柔らかいので注意)
  6. 銀食器の手入れにも重曹は有効である。
    銀のくすみは銀表面が空気中にわずかに存在する硫化水素(H₂S)と反応して硫化銀(Ag₂S)が生成したモノである。
    アルミ箔を敷いた容器に重曹と沸騰直前の湯を入れ銀製品を漬けておく。
    イオン化傾向の大きいアルミニウムと小さい銀との間は起電力の差が大きく、また重曹は電解質であるからここで一種の電池を形成する。
    電子がアルミニウムから硫化銀に移動し、硫化銀は硫黄を手放して元の銀に戻る。
  7. ナチュラルクリーニング(重曹、クエン酸(食酢、レモン)、石けん)
    重曹はクエン酸(HOOCCH₂C(OH)COOHCH₂COOH、2%水溶液PH=2,1)とともにパイプ清掃(重曹を振り入れた排水溝の中に2%程度の温めたクエン酸を流しいれる)などでよく用いられる
    C₃H₄(OH)(COOH)₃+3NaCO₃→C₃H₄(OH)(COONa)₃+3CO₂+3H₂O