塩より砂糖が先

「さ・し・す・せ・そ」

砂糖(さ)、塩(し)、酢(す)、醤油(せ)、味噌(そ)。
味付けはこの順序で行うのが基本
「すせそ」は必要以上の過熱により主要成分や、風味が飛んでいく。

肉や野菜を細かく見ると、細胞というμm(マイクロメートル)オーダーの袋が寄り集まった構造をとっている。

・野菜の場合は、細胞は細胞壁というセルロースでできた壁で覆われている
・肉の場合は、コラーゲンを主成分とするマトリックスと呼ばれている薄い層で覆われている

細胞壁やマトリックスは細胞の全表面をぴったりと覆っているのではなく、所々で結合しておりその隙間には水が保持されている。
この水の部分に塩や砂糖が入り込み”中に味がしみ込んだ”状態になる。

「こんな細い隙間にどのように塩や砂糖が入り込むのだろう?」

水溶性のインクを水に1滴垂らすと、徐々に広がりそのうち均一な色水となる。
このように、全体が同じ濃度になるようにインクが水の中を移動していくことを「拡散」という。
「拡散」は、濃度が高い方から低い方に向けて自発的に起こる物質の流れである。

「煮物の味付け」

調味料が入った汁に野菜などを浸すと、野菜内部の調味料の濃度は、初めはほとんど0なので調味料が野菜の内部に拡散して味がつく。
拡散は非常に遅い過程であるので、室温での拡散は非常に遅い。しかも生の野菜だと細胞が緻密に詰まっているので、調味料はゆっくりとしか内部へ侵入することができない。
そこで煮るなどの加熱処理により、拡散を速くするとともに、野菜の細胞を結合させているペクチン質を溶解して細胞間の結合を緩め、味のしみ込みをよくしている。

「さ・し」  砂糖と塩の拡散の違い

塩(塩化ナトリウム)は、ナトリウムイオンと塩化物イオンとが結合したもので、水に溶けると電離して単独のイオンとなる。
(Na=23,Cl=35,5 (式量)  イオン式や組成式の中に含まれる元素の原子量の総和)
砂糖の主成分であるスクロースは水に溶けても元の分子の形を保っており、式量は「342」と塩よりもかなり大きい。
大きいモノほど溶液の中で受ける抵抗が大きく、拡散の速さも遅くなる。従って塩に比べると砂糖のしみ込みには時間がかかる。
しかし、時間だけの問題なら入れる量にだけ気を付けて砂糖が十分に浸み込むまで煮ればよいのだが、そう単純ではない
塩を先に入れると食品の周りに塩分濃度の高い水がある状態になる。 そうすると、中と外の塩分農だが等しくなろうとするのだが、そのためには塩が中に拡散しても中の水が外に出てきても同じことである。しかも「水が外に出てくる方がずっと速い。」
このとき、水が外に出てこようとする圧力を「浸透圧」という。

塩を先に入れると、浸透圧により食品内の水分を吸いだし組織を引き締めてしまい、後から入れた大きな砂糖の分子のしみ込みを妨げてしまう。 そして甘みがつくのに一層時間がかかるようになり、先に煮崩れしたりしてしまう。

砂糖を先に入れた場合、浸透圧の大きさは重さではなく分子やイオンの数に依存する。

味付けの時、一般的に塩は1%程度砂糖は5%程度が適度な量であるが、塩と砂糖の分子の重さは約6倍違うので、分子の数としては塩の方が多くなり、塩の電離の効果や砂糖の拡散が遅いことと相まって、砂糖による引き締めの効果は小さい。
従って砂糖で先に味付けしても、塩の味付けにはほとんど影響を与えない。