~石けんの本当の値段~ 暮らしを支える植物の辞典(A.レウィントン)より引用
「一個の石けんのようなささやかな日用品が人間と環境に大きな悲劇をもたらしている」
アブラヤシ(African oil palm)
- 世界で最もよく売れている植物油の原料
- 食品工業、石けん、化粧品等、油脂化学製品の製造に広く使用
- 1996年、世界の植物油輸出量の52%を占める
- 2007年でも40%
- 1990年から西アフリカ以外の地域でも広く栽培される(パーム油とパーム核油が地球規模の需要を満たすアグリビジネスの対象となったため)
- 石油掘削機用の潤滑油から、コーヒークリーム、化粧クリームまで
「増える消費」
- 1993年~1998年の間に消費量は32%増え、年間およそ100万トンずつ増加している
- 1960万トンの油(1750万トンのパーム油と210万トンのパーム核油)を生産するために、1997年までに650万ヘクタールの耕地がアブラヤシのプランテーションに変わる
- 2002年には、世界中で年間2300万トン、面積で1000万ヘクタールまで拡大する
- 主な消費国はイギリス、ドイツ、オランダ、スペイン、イタリア、インド、パキスタン、中東諸国、中国
- 需要が拡大した結果、自生地以外のマレーシア、インドネシアなどの地域でもプランテーションが急速に拡大し、優れたクローン品種が使われるようになる
- マレーシア、インドネシア、パプアニューギニア、タイが主要生産国であり、世界のパーム油80%を生産する
- フィリピン、カンボジア、インド、ソロモン諸島でも生産計画があり、エクアドル、コロンビア、ブラジルでも栽培が増加している
- 結果、地域の自然生態系(ほぼ熱帯雨林)の大量破壊と数千の人々の暮らしの犠牲に成り立っている
「新しい栽培地はどのように破壊されているのか?」
- 多くの場合、森林に火をつけ古くからの伝来の土地を奪う
(1997年、インドネシアで多発した破壊的な山火事で約1000万ヘクタールに及ぶ森林破壊は、大農園のオーナーによる意図的なもので、地域住民から土地を没収しやすくするためだったといわれている) - カリマンタンのダヤクが住む村々では、村人たちの森林や家、伝統的な暮らし方が破壊され、彼らは強制的に入植地に移され、新しい農園で厳しい条件下で働くことを強要された。不満を訴えるものは無視か暴力を受けたという
- 1996年、東カリマンタンでプランテーションをやめさせようとした村のリーダーが、警備隊によって裸にされ、鞭うたれ、たばこでやけどを負わされた。抗議した人の中には銃で撃たれたものもいた。
それでもカリマンタンやイリアンジャヤの広大な地域がアブラヤシのプランテーション農地に変えられることが予定されている - インドネシア政府の移住プロジェクトと関連している
「価値の高い植物」
- アブラヤシは利益性の高い作物であるため外国に負債のある政府にとっては魅力的である
- 安い労働力、安い土地、早い成長、環境規制の欠如によってより大きな利益を生む(しかし、大規模栽培を推進した結果、国際価格が暴落しいくつかの生産者は経営破たんした)
- 生産国以外の取引や再加工に関係する国々は低価格による消費の増大により、利益が確保されている
- アブラヤシの競争相手である他の植物油は、アメリカやヨーロッパの補助金政策により価格が低く調整されている
- IMFや世界銀行は、アブラヤシ栽培を推進する海外からの投資を奨励する一方、プランテーションが失業を解決し環境にも有益であると明言している。つまり「人間と環境の悲劇は欧米の多くの投資機関や銀行によって支援されている」
「多様性の破壊」
- 多くの問題を引き起こしているのは、アブラヤシ自体よりも「アブラヤシの栽培様式」である(熱帯雨林が単一作物のプランテーションに変わることで、動植物種の幅広い多様性が失われる)
- インドネシアやマレーシアの研究ではアブラヤシ単一栽培条件下では、熱帯雨林の動物の80~100%が生存できない。実際に生存できるのはヤシの木の上で生活する害虫のような生物だけだとも言われている
- オランウータン、スマトラトラ、アジアゾウ、サイに未曽有の危機が迫っている
GOOD NEWS
- 2002年1月、WWFと協同でスイス最大級の小売りチェーン店が熱帯林を犠牲にしていないアブラヤシ製品だけを取り扱う試みをヨーロッパで初めて行った
- アブラヤシのプランテーションの拡大が(大豆栽培も同様)「守るべき」森林を危機にさらすことのないよう、WWFのForestConversionInitiativeは働きかけている