なぜジアミンアレルギーが起きてしまうのか?
「予防は最大の防御なり」
毛染め(ジアミンカラー)によるアレルギー・カブレや皮膚炎は、年々増加傾向にあります
そんなジアミンアレルギーや染毛剤皮膚炎をなくすため、ゼロにするため、さまざまな著書や文献を参考にさせて頂きながら、毛染め(ジアミンカラー)による皮膚障害・アレルギーに絞ってまとめてみました。最後に効果的な対処法をまとめてみます
まずは、アレルギーの仕組みを理解するために
①皮膚の構造②アレルギーが起きる仕組み③内因的要因と外因的要因によってアレルギーが起きやすくなったりすること④パラフェニレンジアミン、について多少なりとも知っておいた方がいいと思います
ちょっと長くなりますが、一通り目を通していただければ、毛染めによるカブレに悩まされることが無くなるように、なるべくわかりやすく順を追って解説していこうと思います
では、まずここから⇩
ここでのポイントは、アレルギーをつかさどる免疫細胞がいる場所です。他は、皮膚って凄いって感心するだけでOKです
1、皮膚の構造としくみ
皮下組織をのぞいた皮膚の厚さは部位によって異なりますが、約1,5~4mmでそのうち表皮は0,06~0,2mmの厚さです。
健康な表皮では、最深部でのみ細胞分裂が起き、その細胞が次第に形を平たくしながら表面に向かい、やがて死んでしまいます。そしてこの死んだ細胞は、水を通さない膜である角層を形成します。この角層はやがて表面から垢となって剥がれ落ちていきます。
このようなプロセスを約1~2か月かけて絶え間なく繰り返しています
表皮の基底部には肌の色を決める色素産生細胞メラノサイト、外部から侵入した異物に対して免疫応答のシステムを発動させる役割を担うランゲルハンス細胞、触覚に関与していると考えられているメルケル細胞があります。
一方真皮はコラーゲンなどの繊維状タンパク質によって形成された結合組織ですが、真皮内には免疫や炎症に関与する肥満細胞(マスト細胞)、真皮樹状細胞が点在しています。
血管は真皮内で網状に分布して、表皮内には入っていませんが、神経の末端はメルケル細胞やランゲルハンス細胞と接触するほか、一部が表皮の中にまで入り込んでいます(この神経は無髄のC繊維でむき出しの神経線維です)
人間の体の約70%は水ですが、水を通さない膜「角層」があるおかげで体の水分を保つことができます。
先ほど書いた表皮のケラチノサイトが死んで堆積してできた角層です。部位によって異なりますが、およそ10~20ミクロンです(1ミクロン=1000分の1㎜)。同じ厚さのプラスチック並の水の通しにくさを持っています。
角層はレンガとモルタル構造によって内部の水分を逃がさず、外部からの水分の侵入を防いでいます
免疫細胞のが点在する場所の確認はできましたか?
特に表皮に点在するランゲルハンス細胞という免疫細胞の一つが、毛染めによるアレルギーには重要になります
ここまで大丈夫ですか?
2,アレルギーが起きる仕組みについて
(*一時刺激性接触皮膚炎とはちがいます)
ここでいうアレルギーは、ジアミンカラーに対して起きるアレルギー反応なので、Ⅳ型アレルギー(遅延型)と呼ばれるアレルギー性接触皮膚炎のメカニズムを解説します。ややこしい名前がいくつか出てきますが、ついてきてくださいね
①原因物質(パラフェニレンジアミン等)が皮膚から侵入すると、皮膚にあるたんぱく質と結合して抗原となります。この抗原をランゲルハンス細胞がキャッチします
②抗原をキャッチしたランゲルハンス細胞は表皮基底部へと移動していき、リンパ管にのってリンパ節に入ります。ここで待機しているリンパ球(T細胞)に抗原が侵入してきたことを伝達します。すると、抗体を持ったリンパ球が作り出されます。これを感作すると言います
③感作されたリンパ球は、血液を流れて皮膚に集まります
④再び同じ原因物質(抗原)が皮膚に接触すると、抗体を持つリンパ球とその抗原とが反応して、抗原抗体反応がおこり、Ⅳ型アレルギー(遅延型)による皮膚の炎症が発生します
ここで重要なことは、アレルギー性接触皮膚炎(Ⅳ型アレルギー)は1度の接触では起きないということです
個人差や皮膚の状態によりますが、原因物質(毛染めの場合は特にパラフェニレンジアミン)による接触が何度か繰り返されるうちにカブレが起きるので、原因物質が思い当たらないことが多くなっています
接触性皮膚炎についてもっと詳しく知りたい方は
が参考になると思います(スマホだと細かすぎて読みにくいのですが💦)
〔ミニ知識〕
よくある花粉症はⅠ型(即時型)アレルギーです。目、鼻、喉の粘膜に花粉が付着することによりマスト細胞が反応し、即座にヒスタミンを放出し各種のアレルギー反応が起こります。
Ⅰ型アレルギーはマスト細胞が関係し、Ⅳ型アレルギーはランゲルハンス細胞とリンパ球(T細胞、B細胞)が関係している、似ているようで違うアレルギーです
ここで、Ⅳ型(遅延型)アレルギーが原因で起こる皮膚表面の変化について触れておきます
[概要]
Ⅳ型アレルギーは、遅延型アレルギーまたは細胞介在型と言い、活性化されたT細胞が組織を傷害する反応です。ツベルクリン反応に代表されるようにアレルギー物質に接触後、24~48時間が反応のピークとなります。そのため遅延型アレルギー反応または遅延型過敏症反応とも言います。
T細胞によって誘発されるためT細胞介在遅延型アレルギーとも呼ばれ、2種類のT細胞が関与します(ヘルパーT細胞とキラーT細胞)。この内決定的な働きをする細胞はIFN-γを産生するヘルパーT細胞です。
刺激されたT細胞はIFNやILなど数種の抗炎症性サイトカインを放出して、皮膚炎がおきます。
[症状]
搔痒を伴う浮腫性の紅斑*¹(皮膚が赤くなる)を形成し、つづいて紅斑上に丘疹(皮膚面がわずかに盛り上がる)もしくは漿液性丘疹を生じます。そして、小水疱(水ぶくれ)や膿疱(膿がたまる)⇒湿潤(汁が出て皮膚がジメジメしている)⇒痂皮(かさぶた)⇒鱗屑(うろこ状の皮膚が剥離する)を形成して治癒にむかいます。
*1)真皮の血管が充血することによって起こる。紅斑部分を指先で押すと、充血部血液が周囲の血管に押し流され1時的に消失し、指先を離すとすぐに戻るのが特徴。紫斑や色素班とは違います。
この症状の流れを湿疹三角と呼ばれています⇩
毛染め後、30分~48時間以内に痒みを伴う紅斑がでたら、自己判断はせずに最寄りの皮膚科の診療を受けることをおすすめいたします
アレルギー性接触皮膚炎のことに気付かずに毛染めを続けていると、やがて接触部位(頭皮)だけの炎症にとどまらず、全身に皮膚病変が出現します。
これは、原因物質に経皮的に繰り返し曝露され続けることにより、その原因物質(パラフェニレンジアミン)がリンパ流や血行性に散布され、全身に皮膚病変がおこる「アレルギー性接触皮膚炎症候群」という重症化にいたってしまいます
毛染め剤を流した後に頭皮に痒みがでたら要注意!
また、毛染め後のシャンプーで頭皮についたカラーがなかなか落ちない人、頭皮が染まりやすい人は、ジアミンに弱い人の反応です。痒みがでなくても早急な対処が必要です
Ⅳ型アレルギーは根治しません。初期段階から重症化への道をたどるだけとなります。たとえ一年経っても同じ経過をたどります。一度覚えてしまったパラフェニレンジアミンを、リンパ球は忘れません
ここで一次刺激性接触皮膚炎についても触れておきます
刺激性接触皮膚炎は、接触した物質そのものの毒性によって角化細胞が障害され、リソソームや各種サイトカインが放出されることで生じる炎症反応です。
*毛染めの場合は、過酸化水素やアルカリ剤(アンモニア、過硫酸ナトリウム等)によるものです
一定閾値以上の刺激によって初回接触でも、かつ誰にでも発症します。近年(コロナ禍)では、頻回の手洗いなどによる皮膚バリア機能の低下を背景として、毒性の低い物質(石けん、シャンプー、職業性物質)の頻回曝露による刺激性接触皮膚炎が増加しています
ここまでご理解いただけたでしょうか?
・アレルギーは一度の接触では起きない事
・毛染めによるアレルギー症状は時間差(30分~48時間以内)をおいてやってくること
・はじめは痒みを伴うことから始まること
・初期症状の痒みはやがて治まりますが、そのまま毛染めを続けていくと必ず重症化になること
だけは、理解してくださいね
3、「アレルギーが起こりやすい人」と「アレルギーを起こしやすくする要因」
肌が過敏な状態であり、皮膚トラブルを起こしやすい肌を敏感肌と言います
角質層の状態は、皮脂が少なく乾燥しやすく角質層の細胞と細胞の隙間が大きく、刺激物質に侵されやすい
1、過去にかぶれの経験がある人
2、アレルギー体質の人
3、月経、妊娠、更年期でホルモンがアンバランスな人
4、神経質で、肌が過敏であると感じている人
は敏感肌です
敏感肌の人の皮膚は、角質の水分保持能力が低下し、皮膚表面の皮脂膜が不十分で、外からの刺激に大変弱くなっています。敏感肌の人は刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎になりやすくなっています。
自分が敏感肌だと自覚している人は、自分自身がアレルギー体質か知っておくことが大切です
[自己診断チェック項目]
▢両親のどちらかがアレルギー体質である
▢特定の食物で蕁麻疹を起こしたことがある
▢春先にくしゃみ、鼻づまりが起こる(花粉症)
▢これまでに化粧品でかぶれたことがある
▢下着で擦れる部分がかゆくなったことがある
▢ほこりが立つと、くしゃみが止まらなくなる
▢喘息や気管支炎になったことがある
▢金属製アクセサリーでかぶれたことがある
▢肌が粉をふいたように乾燥する
▢口の周りやのどが時々かゆい
▢洗剤・シャンプーで指先がかぶれる
すべてアレルギーの特徴的な症状です
「アレルギー発症は心理的要因も大きい」
感情的なストレスは神経ペプチドの放出を増やして皮膚や粘膜の炎症性変化を誘起し、その結果、アレルギー性反応の症状・徴候に影響をおよぼします。
敏感肌・超敏感肌の人は髪を染める前に、理美容師に必ず伝えるようにしてください
4,パラフェニレンジアミンやその他酸化染料を知る
[染毛剤の概要]
使用直前に第1剤と第2剤を混合し毛髪に塗布する。塗布された混合染毛溶液は、配合されている過酸化水素の働きにより毛髪中のメラニン色素を酸化分解させ、毛髪を明るくするとともに染料中間体(プレカーサーとカップラー*¹)の酸化重合反応を促進するように働きます。つまり、脱色と染色を同時に起こして髪色を変化させています。
*1)プレカーサーとして主にパラフェニレンジアミン、カップラーとして主にレゾルシンが使われています
現在使用されている酸化染毛剤は、基本的な酸化染料およびアルカリ剤が配合された第1剤と、酸化剤を含む第2剤で構成されています。(日本で使用が許可されている染料は、平成27年に改められ(以降5年おきに改訂)染毛剤製造販売承認基準により定められており、46種類の酸化染料と8種類の直接染料が収載されています
パラフェニレンジアミンは⇩こんな化学式
単体では無色です
これに過酸化水素が加わると⇩
パラベンゾキノンジイミ二ウムイオンという反応種が生まれます。芳香環の両端についているアミノ基が過酸化水素によってイオン化し、他の物質と結合しやすい状態になります
ここから様々な反応が起きて最終的な色が完成します⇩
つまり、最初から茶色って色がある訳ではなく、無色のパラフェニレンジアミンがほかの無色の酸化染料と反応(酸化重合)した結果、出来上がる色ということになります。そして、日本人に好まれる濃い褐色はパラフェニレンジアミンがないとできません
ちなみに、パラフェニレンジアミンが禁止されている欧州では、代わりに濃い褐色系の色が出ないトルエン2,5ジアミンを使用しています⇩
化学式が変わるだけでアレルギーが出にくくなるため、パラフェニレンジアミンの代替品として認可されているのでしょう
化学式アレルギーの方にはわかりにくいですよね?
ご安心ください、私もよくわかりません
ですが、わかっていただきたいのは、パラフェニレンジアミンがなければ日本人の髪色に合う白髪染めができないということです。カラートリートメントでも代用できないし、ヘアマニキュアでも代用できない優れた染料で、ただアレルギーが出やすいという副反応があるということ
厄介です
パラフェニレンジアミンが特にカブレやすい原因として、パラフェニレンジアミンに過酸化水素が加わった時にできる反応種「パラベンゾキノンジイミ二ウムイオン」は反応性がたかく、この形の時に皮膚のたんぱく質と結合してしまったパラベンゾキノンジイミ二ウムイオン+たんぱく質を、ランゲルハンス細胞が捕まえるのでしょうね。たんぱく質の元はアミノ酸です。化学式にアミノ基が二つあるとジアミン。アミノ酸の末端にはアミノ基が一つあります。結合しても何の不思議もないことが想像できるのではないでしょうか?残念ながら、この辺りのしくみを解説している文献を見つけることができませんでした
5,効果的な対処法
ここまで真面目に読まれた方は、何かに気付きませんでしたか?
アレルギー性皮膚炎も刺激性皮膚炎も、どちらも原因物質が皮膚に接触することから始まります。
皮膚に染毛剤がつかなければ何も問題が起きないということ。
ヘアマニキュアに問題が起きにくいのは、頭皮から離して塗布するからです。そう、ヘアマニキュアも皮膚からベタベタ塗布すると様々な問題が出てきます(ジアミンカラーよりもっと怖いかも💦)
注意していただきたいのは、カラートリートメントとして市販されているものや、ヘナとインディゴをミックスしたものはアレルギー性接触皮膚炎を起こしにくいのですが、アレルギー性接触皮膚炎症候群まで重症化してしまった人に使用すると、これらのものを使用しても皮膚炎を起こしやすくなりますのでご注意してください
ヘアマニキュアやカラートリートメント、各種ノンジアミンカラー、ヘナ、インディゴミックス、オハグロ式カラーなど、肌にやさしい毛染めはたくさんありますが、一番大切なことはモノではなくそれらを使いこなす意識が高いヒトが使わなければ、宝の持ち腐れになってしまうことです
もし、それらの肌にやさしいカラーでも皮膚炎を起こしてしまったら・・・💦
それらを加味したうえで
いちばんの予防兼対処法は「カラーグレス」と思われます
これらの危険を承知している理美容師が行う技術のことです。それはただ単に頭皮に染毛剤を付けないようにするだけではありません。様々な工程で成り立っています
この技術をすべての理美容師が行うようになった時、毛染めによるアレルギーはほぼなくなることでしょう
安心安全に、誰もが毛染め白髪染めを楽しく迎える日を望んで終わりにしたいと思います
ここまでお読みいただきありがとうございます
参考にさせて頂いた著書・文献
美容の医学「美容皮膚科学事典」:監修 朝田康夫
思考する最大の<臓器>「賢い皮膚」:著者 傳田光洋
わかりやすいアレルギー・免疫学講義:著者 扇元啓司
あたらしい皮膚科学(第2版):著者 北海道大学医学部皮膚科教授 清水宏
毛髪の科学(第4版):著者 ケラーレンス・R・ロビンス 訳 山口真主
薬食発0325第33号 染毛剤製造販売承認基準について
博士論文 ケラチン繊維に対する酸化染料染着機構に関する研究 伊豆田友美